いくつになっても心にきらめきを。

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culture
大人のクラシック再入門
vol.01:アレクサンドル・カントロフ
アレクサンドロフカントロフインタビュー
TEXT:伊熊 よし子
いま改めて聞きたいクラシックをご紹介する「大人のためのクラシック再入門」。第1弾は。気鋭のピアニスト、アレクサンドル・カントロフです。2019年に22歳でチャイコフスキー国際コンクール最高賞を受賞して以来、世界の第一線を走り続ける若き巨匠の魅力を、クラシック評論家・伊熊よし子さんに解説していただきました。伊熊さんが今回のプログラムで演奏される名曲にインスパイアされたレシピもご堪能ください。(編集部)
技量を超えた情感豊かな表現力
「大人のピアニスト」カントロフ
名だたる国際コンクールのピアノ部門優勝者というと、テクニックを前面に押し出し、どんな難曲もバリバリこなす凄腕の奏者を想像する人が多いのではないでしょうか。しかし、フランス出身のアレクサンドル・カントロフはそうしたタイプとは一線を画す、情感豊かで作曲家が作品に込めた真の意図にひたすら近づき、聴き手の心に深い感動を及ぼす演奏をする、いわゆる「大人のピアニスト」です。
カントロフは22歳で挑んだ2019年のチャイコフスキー国際コンクールにおいて、フランスのピアニストとして初めて優勝の栄冠に輝き、コンクール史上わずか3人しかいないグランプリも手にしました。以後、世界各地で幅広く活躍。2023年に「ギルモア・アーティスト賞」(編集部注:世界中のクラシック音楽関係者が匿名で候補者を審査し、4年かけて1人を選ぶ賞)を史上最年少で受賞、2024年には国家功労勲章シュヴァリエの称号を授与され、同年のパリ・オリンピックで演奏を披露するなど、20代で名実ともにフランスを代表するピアニストとなります。
心が震えた初来日のブラームス
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ⓒ︎Sasha Gusov
初来日は2021年。このときのリサイタルはとりわけ印象に残り、大きな感銘を受けました。彼はブラームスをこよなく愛し、コンクールでも演奏していましたが、来日公演では「4つのバラード」とピアノ・ソナタ第3番を披露し、深遠で詩的で哀感に富み、諦観の念を抱かせる表現に心が震える思いでした。この若さで(1997年生まれ)ここまで演奏が成熟し、ブラームスの心情に寄り添えるとは驚きのひとことです。ブラームス好きは子どものころから、と彼は言います。
「12歳のころにアルトゥール・ルービンシュタインが演奏するブラームスのピアノ協奏曲第1番を聴き、まさに衝撃を得たのです。わたしは父がヴァイオリニストのジャン=ジャック・カントロフですから、最初はヴァイオリンを習いましたが、ヴァイオリンは音を出すのに忍耐力が必要。わたしは気が短かったので合わず、ピアノの方が楽に弾けて楽しかった。それがいままで続いている理由です」
2025年11月には、いまもっとも熱き視線を浴びている指揮者、クラウス・マケラが指揮するロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のソリストとして日本ツアーに参加し、ブラームスのピアノ協奏曲第第1番で圧倒的な美質に富む演奏を披露しました。もちろん、他の作曲家の作品も成熟した薫り高きピアニズムで、ひとつひとつの音が磨き込まれ、説得力を備えています。作品によっては幻想的で物語性にあふれ、芝居を見ているような視覚的な感覚を帯び、霊感と官能性を備え、ピアノが雄弁な歌を奏でていきます。
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音楽への熱い想いが溢れるアンコール
この来日時に2026年のプログラムに関しても聞きました。
「わたしはまずメインの曲を決め、そこから橋を架けるように他の作品へとつなげます。メトネル(ロシア)はバッハやショパンの作品を自分のなかで再現して新たな作品として構築した作曲家で、メトネルを弾くと詩的で文学的な要素に歓びを抱き、刺激がもらえます。ベートーヴェンの最後のソナタは、黒く暗い闇のなかから最後には光が見えてくるベートーヴェンらしい構成。第1楽章の最後は宗教的な救いを求める感覚で、人生を考えさせます。このソナタは、人生においてすべての人が自分のストーリーを描くことができるのではないでしょうか。今回はバッハからベートーヴェンまで人間の本能に導かれるような普遍的なテーマを基本としているのです」
カントロフは物静かで落ち着いた話し方をする人ですが、いったんステージに出ると音楽への熱き想いが一気にあふれ出し、アンコールも止まらなくなります。
「拍手が鳴りやまないとずっと演奏したくなるんですよ。アンコールもやめられない(笑)」
今回の公演もカントロフの静謐と情熱など相反する表現に満ちたピアニズムが炸裂します。感極まったら、盛大な拍手を贈りましょう!!

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INFORMATION
[公演]:アレクサンドル・カントロフ ピアノリサイタル
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11月25日(水)愛知県芸術劇場 コンサートホール (愛知県)
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11月26日(木)札幌コンサートホールkitara 大ホール (北海道)
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11月28日(土)ほねごり杜のホールはしもと ホール (神奈川県)
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11月29日(日)サントリーホール 大ホール (東京都)
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11月30日(月)ミューザ川崎シンフォニーホール (神奈川県)
[プログラム]
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リスト:J.S.バッハのカンタータ《泣き、嘆き、悲しみ、おののき》と「ロ短調ミサ」による変奏曲 S180
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メトネル:ピアノ・ソナタ第1番 へ短調 op. 5
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ショパン:前奏曲 嬰ハ短調 op. 45
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アルカン:すべての長調と短調による25の前奏曲 op.31から 第8番「海辺の狂女の歌」
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スクリャービン:詩曲「焔に向かって」
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ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 op. 111
https://www.kajimotomusic.com/artists-projects/alexandre-kantorow/
Text:伊熊よし子(いくまよしこ)
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。インタビューの仕事も多く、多い年で74名のアーティストに話を聞き、海外取材も80回。趣味は料理。「アーティストレシビ」を多数考案。近著「もっと聴きたい! さらに知りたい! ショパン・ハンドブック」(音楽之友社)
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