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大人の睡眠レッスン

health&beauty

昼を整えれば、夜が変わる

今夜の眠りが楽しみになる大人の睡眠レッスン

TEXT:河﨑志乃 

年齢を重ねるごとに、少しずつ変化していく毎日の睡眠リズム。「朝、早く目が覚めるようになった」「夜中にふと目が覚める」といった体の声に気づくことはありませんか。睡眠健康指導士上級の資格を持つ医師・佐々木ちひろ先生によると、実は心地よい眠りをつくる鍵は、夜ではなく「昼の過ごし方」にあるのだそう。「昼と夜はひとつにつながっている」という視点から、明日を軽やかに迎えるための眠りのヒントを伺いました。

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変化していく眠りと、心地よく付き合うために

年齢とともに眠りが浅く、短くなるのはなぜなのでしょうか。佐々木先生は、一言で説明するのは難しいとしつつも、二つの仕組みが関係していると言います。

ひとつは体内時計。朝には朝だと告げて体を活動モードに、夜には夜を告げて休息モードに切り替えるという体のリズムです。もうひとつは睡眠圧。起きている時間が長くなるほど眠りたい欲求が高まります。「ししおどしの竹筒の中に水が溜まり、いっぱいになると跳ね返ってコーンと石を打つように、起きている間に溜まった睡眠圧が、夜の眠りで解消される仕組みです」と佐々木先生。
 

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年齢を重ねると、体内時計は早寝・早起きの方向へ移り、昼夜のリズムも弱まる傾向があります。水晶体の黄変・混濁で網膜に届く光が減り、光による体内時計の調整に影響する可能性もあります。また、夜間のメラトニン分泌が低下する方もいて、体に「夜」を伝える信号が弱まります。一方、睡眠圧は起きている間に高まり、眠ると下がります。日中の昼寝が長くなると、夜までに睡眠圧が十分高まらず、寝つきや眠りの持続に影響します。これらが重なり、夜間の睡眠が途切れやすくなるのです。「ですから、若い頃と同じ睡眠を求めても、土台無理なのです」。

十分な睡眠かどうかを何時間寝たかで測るのではなく、日中を元気に過ごせているかどうかで判断することが大切。厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』にも、「床上時間が8時間以上にならないことを目安に、必要な睡眠時間を確保する」※1という項目があります。佐々木先生も「眠れないからといってスマホなどを見ながら何時間も寝床にこもってごろごろするのは、むしろ逆効果」と言います。「寝床にはしっかり眠くなってから入り、寝床は眠るためだけの場所にするのが理想です」。

眠りは「夜」ではなく、

「朝の光と日中の活動」から始まっている

では、睡眠の質を高めるには、何をすればいいのでしょうか。佐々木先生がまず挙げたのは、夜の行動ではなく、昼の過ごし方でした。「夜の睡眠は、昼の活動とセットになっています。朝はなるべく決まった時刻に起きて日中は活動し、夕方以降は少しずつ休息に向かう。そのようにして、昼夜のリズムを整えることが大切です」。

 

眠れないと、つい夜の対策だけでなんとかしようと考えがちです。ですが、佐々木先生はそれでは解決しないと指摘します。「いくら寝る前にストレッチをしたりお風呂に入ったりアロマを焚いたりしても、夜眠れないから昼も休むという生活をしていると、いつまでも解決しません。最初は辛くても、日中を活動的に過ごすこと。それが夜の深い睡眠を呼び込む近道です」(佐々木先生)。

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太陽を十分に浴びるためには朝の散歩もおすすめ。

光も大切な要素。朝に太陽光を浴びると、眠りを促すホルモンであるメラトニンの分泌が抑えられて目が覚め、夜は自然に眠気が訪れます※2。逆に昼間を暗い部屋で過ごすと、昼夜の区別がつかなくなって日中も眠くなり、実際に寝てしまったりして、夜に眠れなくなります。眠りのリズムと覚醒のリズムは、シーソーのようにお互いが影響を及ぼし合いながら動いているため、それをうまくコントロールしなければならないと佐々木先生は指摘します。「朝は明るく、夜は暗く」は、リズムづくりの基本。佐々木先生は寝室のカーテンをレースのものだけにして、朝いちばんの光で自然に目覚めるようにしているのだそう。「真っ暗だと眠れないという方もいらっしゃいますが、目を閉じていてもそこに照明やテレビの光が当たると眠りが浅くなりますから、足元に小さな灯りをつけるのがおすすめです」。

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そして、毎日同じ時間に起きることも大切。そうするとコルチゾールという覚醒ホルモンが起床の数時間前から分泌され、すっきり起きられるようになる※3と言われています。ただし、スマートフォンのアラームでスヌーズ機能を使って何度も寝たり起きたりしていると、覚醒ホルモンの分泌と覚醒のタイミングが曖昧になってリズムが乱れ、すっきり起きられないと佐々木先生は指摘します。

運動をする時間帯も、体のリズムに関係します。激しい筋トレやランニングは体温を上げて交感神経を刺激し心身が緊張してしまうため、寝る直前には逆効果。体が汗ばむ程度の運動を、涼しくなった夕方頃に行うのが理想なのだそうです。

​

「しっかり噛んで食べる朝食」も、

睡眠につながっている

​​

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コーヒーに牛乳を入れてカフェオレにすることでタンパク質もアップ。

食事の内容や時間も睡眠に関係します。睡眠を誘うメラトニンというホルモンは、セロトニンというホルモンからつくられます※4。そして佐々木先生は、セロトニンの合成を促すには日中に「タンパク質を摂る」「太陽光を浴びる」「リズム運動をする」ことが大切だと言います。朝起きたら日の光を浴びながら、炭水化物だけでなくタンパク質を含む朝食を、しっかり噛みながら食べる。咀嚼することもリズム運動になり、セロトニン分泌を促します。

例えば、トーストとコーヒーだけになりがちな方なら、卵やチーズ、ヨーグルト、豆製品などを、食欲に合わせて足す方法があります。ツナサンドや卵サンドも手軽な選択肢です。炭水化物とタンパク質の組み合わせは、体内時計の朝のリセットにも良いとされています。
これまで朝食を摂っていなかった方は、最初はあまり食べられないかもしれません。ですが食事の時間を決めて少しずつ食べるようにしていけば、体も順応し整っていきます。ご自身が取り入れやすいメニューで、タンパク質を日々の生活にプラスしてみてはいかがでしょう。

また、遅い夕食は眠りを妨げるだけでなく、翌日の朝食欠食にもつながり、睡眠・覚醒リズムを乱す悪循環を招く※5ことが報告されています。夕食は就寝直前ではなく、早めにとるのがおすすめです。食事量は朝と昼を多めにして夜は軽めにしたほうが、より良い眠りにつながると佐々木先生は言います。

夜の眠りを邪魔しない、

大人の「賢いお昼寝」の作法

​

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コーヒーブレイクとお昼寝をセットにして、午後の心地よいリラックスタイムに。

日中に眠気があるとき、短い昼寝が役立つことがあります。一方、長い昼寝や夕方以降の昼寝は、夜の眠りに影響することがあります。
「短時間の昼寝は集中力や作業効率を高める効果があるとされていますが、長時間の昼寝は、最初にお話しした睡眠圧を解消してしまい、夜に眠れなくなります。昼寝をするなら20〜30分ほど※6、遅くとも午後3時頃までにするのが良いでしょう。眠れなくても、目を閉じてスマホやテレビなどの視覚情報を遮断すれば、脳を休める効果はあります」。
佐々木先生によれば、短時間の昼寝をしたい時、寝る前にカフェインを摂るのもおすすめ。カフェインの効果が出始めるのが摂取してから30分前後※7とされているため、お茶やコーヒーなどを飲んでから昼寝をすればちょうど良い時間にすっきりと起きられるはずです。

「眠れない」と自分を責めない。

軽やかな朝と昼が眠りをつくる

 

「まずはあまり悩まないことです。眠れないと自分を責めても、答えは出ません」と語る佐々木先生。「夜、いかに眠るかだけでなく、朝、どのように目覚め、昼をどう過ごすか。その積み重ねが、心地よい眠りを育みます」。

 

夏が終わり、心地よい眠りが恋しくなる秋。まずは毎朝、決まった時間に起きて太陽の光を浴び、タンパク質のある朝食をとる。そんなふうに昼間の時間を整えることが、今夜の心地良い眠りへとつながっていきます。

​DOCTORS

佐々木 ちひろ(ささき ちひろ)先生

大人の睡眠レッスン

お茶の水女子大学 文教育学部人間社会科学科 心理学コース卒業。さらに札幌医科大学 医学部医学科に進学し、臨床研修終了後は腎臓内科医として、大学病院、市中病院で勤務。その後、ヘルスケアコンサルタントになり産業医資格を取得。現在は精神科クリニックで診療にあたるほか、都内を中心に数社の産業医を務めながら、企業研修や個人セッションを行っている。睡眠分野では睡眠健康指導士上級の資格を持ち、不眠の認知行動療法セミナー(ベーシックコース)を修了。医学的知見と産業保健の実践を生かし、心と身体の健康を支える睡眠改善のサポートを行なっている。

※1:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」高齢者版(床上時間が約8時間以上で総死亡率増加/床上時間の目安=平均睡眠時間+30分)。
※2:ガイド2023「光の環境づくり」:日中1,000ルクス以上の光で夜間メラトニン分泌増加/就寝約2時間前からメラトニン分泌開始/睡眠中の低照度でも中途覚醒増加。
※3:Weitzman ED ら, J Clin Endocrinol Metab, 1971 — 睡眠・覚醒サイクルとコルチゾール分泌の概日リズム(覚醒前の早朝から上昇)/Stalder T ら, Psychoneuroendocrinology, 2016 — 覚醒後30〜45分のコルチゾール鋭敏上昇(CAR)測定に関する国際コンセンサスガイドライン。
※4:メラトニンはセロトニンのアセチル化(セロトニンN-アセチル転移酵素AANAT)で合成: Hickman AB, Klein DC, Dyda F, Mol Cell, 1999 / Ganguly S, Coon SL, Klein DC, Cell Tissue Res, 2002(生化学的事実)。セロトニンの分泌には、①タンパク質(トリプトファン): Fernstrom JD, Wurtman RJ, Science, 1972;178:414-6(血中トリプトファン→脳内セロトニン合成)/Markus CR ら, Am J Clin Nutr, 2000;71:1536-44(α-ラクトアルブミンで血中トリプトファン比上昇・セロトニン活性上昇)/②太陽光: Lambert GW ら, Lancet, 2002;360:1840-2(脳内セロトニン代謝回転と日照)/③リズム運動(咀嚼): Mohri Y ら, Pain, 2005(咀嚼による下行性セロトニン抑制系の活性化)。
※5:ガイド2023「運動、食事等の生活習慣と睡眠について」遅い夕食は眠りを妨げるだけでなく朝食欠食にもつながる。
※6:ガイド2023高齢者版「長い昼寝は夜間の良眠を妨げる」30分以上の昼寝を習慣としている人は死亡リスク1.27倍。「15時前の20〜30分」の表現は旧・厚労省「睡眠障害対処12の指針」に基づく。
※7:Fredholm BB ら, Pharmacol Rev, 1999 — カフェインは摂取後約45分で約99%吸収、血中濃度は摂取後30〜60分でピーク。

取材・文  河﨑 志乃(かわさき しの)

「衣食住医」のフリーライター。早稲田大学 法学部卒業。20年以上にわたり雑誌、書籍、Web、SNS、動画シナリオなど多様な媒体で企画・取材・執筆を行う。ミシュランシェフ、生産者、研究者、経営者、医師など、さまざまな専門家への取材経験豊富。ライターのほか、テレビでのフードコーディネートや食のイベント企画、レストランコンサルティングなども行う。

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