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谷川俊太郎

trip

詩が開かれた空間で、わたしに出会いなおす

札幌・谷川俊太郎公認「俊カフェ」

TEXT:佐藤優子  PHOTO:大橋泰之(マカロニ)

眩しい夏が過ぎ、澄んだ秋空のもとで始まる「カルチャー散歩」第1回。
心もからだも充足する〈自分時間〉を探して、ひといきつきたい。そんな読者の方々にぜひ訪れてほしい空間が、道都札幌にあります。身近な言葉、自由な世界観で読む人の心に響く数多くの作品を残した国民的詩人、谷川俊太郎さん(1931年〜2024年)の著作や音楽、グッズなどが楽しめる「俊カフェ」。ご本人公認のブックカフェは他になく、開店9年目の今日も、リリリンとやさしく来訪を告げるドアベルの音が聞こえてきます。

谷川俊太郎

蔵書850冊、私設記念館のような谷川俊太郎ブックカフェ

札幌の街中、観光客がひしめく狸小路の南側を進むと、そこは静かな個性派ショップストリート。いつもの常連たちが集うバーやサロン、老舗の靴修理店が並んでいます。その一角に佇む築100年以上の木造ビルの2階に谷川俊太郎さん公認のブックカフェ「俊カフェ」があります。​​

谷川俊太郎

国内外からの多くのお客様が訪れる俊カフェ。詩人谷川俊太郎の愛読者は世界中にいます。

ビルに入り、昭和レトロな木造の階段を登ると「俊」の文字が見える扉が待っています。軽やかな音色のドアベルとともに店内に一歩足を踏み入れると、そこは初めてなのにどこか懐かしい谷川俊太郎の世界。窓から見える街路樹の緑や白壁に映るやわらかな日差しに肩の力が自然に抜け落ちていくのを感じます。
入口そばの本棚には、谷川さんの著作や関連グッズが並び、まるでライブラリーのような充実度。聞けば蔵書は販売用の新刊もあれば、すでに書店には並んでいない貴重な古書や谷川さん本人から寄贈されたものも含めて、その数850冊以上。
谷川さんが俊カフェのために書き下ろした一篇「俊カフェ案内」や、本人から送られてきた画像データを元に作られた等身大パネルなど、ここでしか出会えないものに溢れています。

カフェメニューもオリジナルクッキーと「詩人の言葉」が付いてくる「詩人のパフェセット」や、玄米おにぎりがおいしい「こばらごはんセット」と、頼みたくなるものばかり。
谷川俊太郎私設記念館のような役割を果たすと同時に、居心地の良いカフェでもある、唯一無二の場所になっています。

谷川俊太郎

「こばらごはんセット」(写真右上)と「詩人のパフェセット」(左)紅茶に添えてあるのはオーナー・古川奈央さんお手製の生姜ジャム(同右下)。谷川さんも好んで紅茶に入れていたそうです。

「応援するからね」と本人も承認、一ファンからカフェオーナーに

俊カフェのオーナーは、札幌出身の古川奈央さん。長年ライター・編集者として活動していましたが、2017年5月に「俊カフェ」を開店。飲食店経験ゼロの壁やコロナ禍を乗り越えて、今年で9年目を迎えています。もともと詩人の血縁者でも、仕事上の関係者でもなく、「ただの一ファン」だったという古川さん。一体どういう経緯で、本人公認の俊カフェを開くことができたのでしょうか。

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​「わたしが初めて買った詩集は、『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』(青土社)です。詩集のタイトルにもなっている一節が使われたテレビCMを見て、その静かな世界観に感動しました」

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​詩集の著者が、古川さんの出身高校の校歌を作詞していたことも巡り合わせだったのかもしれません。そこから次々と谷川作品を収集するようになり、2012年11月には、母校の開校50周年記念式典に招かれた谷川さんと直接話す機会にも恵まれました。


そして2015年7月にはとうとう、谷川さん承認のもとで札幌中心部のギャラリーで「とても個人的な谷川俊太郎展」を開催。130冊近くの蔵書やグッズのコレクションに加えて、本人が貸し出してくれた私物を並べたところ、17日間で1000人以上が訪れるほどの大盛況となりました。この成功に手応えを感じた古川さんは、次の目標を谷川俊太郎さんに特化したブックカフェの開業に設定。カフェ経営の勉強やクラウドファンディングなどの資金繰りに奔走します。もちろん詩人からも「本当にやるなら応援するからね」という心強い支援を得て、2017年5月3日、札幌に世界でただひとつの場所「俊カフェ」をオープンしたのです。

谷川俊太郎

「“うちより俊カフェにあった方がいいから”とお客様から寄贈された本もたくさんあります」(古川さん)

日常に宿るポエジーを詩に、谷川作品と出会いなおす場に

「俊カフェはふつうのカフェ。詩のことはよくわからなくて、という方も大歓迎の場所なんです」と古川さんは語ります。

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「俊太郎さんは、詩を詩人たちだけの、なにか高尚なものにするのではなく、つねに詩を外に開いているひとでした。わたしたちが感じる日々の“うれしい”や“悲しい”、心を動かされることの中にポエジー(詩情)があり、それを詩にするのが詩人の仕事である、ということもよくおっしゃっていました。そこに大勢の読者が共感してきたんだと思います」

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2024年11月13日に谷川さんが亡くなったという訃報は、関係者から直接古川さんの元に届いたといいます。そのあとは連日の取材対応や、その死を悼んで満席が続く俊カフェのワンオペ、注文が殺到した通販サイトの商品発送にてんてこまい。


「もしかすると俊太郎さんが“泣いている場合じゃないよ”と、お客様をいっぱい送ってくださったのかもしれません」と当時を振り返ります。喪失感がないとは言えません。ただ、古川さんには俊カフェがあり、「ここでみなさんに俊太郎さんの詩と出会いなおしてもらえること、そしてその場を見られることがわたしにとっての恩恵です」と語り、前を向きます。

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谷川俊太郎

現役の編集者でもある古川奈央さん。この日、左腕には谷川さんのご家族から譲られた谷川さんの腕時計が。

​「わたし、若いときにこの詩を読みたかったなあ」。俊カフェを訪れ、壁にかかった一篇の詩を見て、そうつぶやいた女性がいたといいます。「いやだ と言っていいですか」から始まるその詩「いや」(『子どもたちの遺言』収録)は、いやという否定を単なるわがままではなく、自分が生きるために必要なことばとして肯定する作品。谷川さんの詩の中でも、とりわけ女性読者から共感を呼んでいる作品のひとつです。​

 

「これ、わたしのことが書いてある」と驚いたり、「いま、この詩に出会えてよかったです」と思えるお守りのようなことばと出会ったり。わたしたちの日常に宿るポエジーを綴った谷川さんの詩を読むということは、かつてのわたしを受け入れるということ。いまを生きる自分と出会いなおすということ。


この秋は、俊カフェにふりつもったポエジーに包まれながら、思い思いに詩集の1ページをめくってみませんか。

俊カフェ古川さんがキラビュー読者におすすめの3冊
谷川俊太郎

●古川さんが企画した追悼アンソロジー『俊太郎さんと。』(地湧社)は14人の詩人の谷川リスペクトが凝縮した1冊。

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●生前最後の詩集『虚空へ』(文庫共に新潮社)は「できるだけ少ない言葉で詩を書けないかという俊太郎さんの挑戦。読んでいて気持ちに風が吹くようです」。

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●詩人の覚和歌子さんとの共著『かっぱ語録』(角川春樹事務所)は「覚さんのミニ解説が楽しくて入門書にピッタリです」

​INFORMATION

谷川俊太郎

​俊カフェ

■住所:北海道札幌市中央区南3条西7丁目-4-1 KAKU IMAGINATION 2F

■℡:011-211-0204

■営業時間:14:00〜19:00(LO18:30)
■定休日:火曜・水曜(祝日の場合営業、翌木曜休)
https://www.facebook.com/shun.T.cafe
https://shuntcafe.thebase.in/

取材/佐藤優子

ライター・編集者。札幌でインタビューを中心に書籍や記念誌などの編集も手がける。北海道の書店や出版人の記事を多数執筆。Sandy Books名義でZINEも制作。シェア型書店「ぷらっとBOOK」15番Sandy Books棚オーナー。

https://note.com/sandybooks

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