いつもの席、空いてますよ
更新日:3 日前

「いつもの席、空いてますよ」。そう声をかけてもらえる店が、近所に一軒ある。ただそれだけのことが、毎日の景色を少し変えてくれます。
若い頃は、新しい店、話題の店を探すのが楽しかったかもしれません。けれど年齢を重ねると、「知らない場所へ飛び込む楽しさ」よりも、「勝手のわかる場所でくつろぐ心地よさ」のほうが、じんわりと効いてくるものです。行きつけとは、その心地よさの、いちばん身近なかたちです。
行きつけの店の良さは、単に「便利」ということではありません。そこが、家でも職場でもない、third place(第三の居場所)になる、ということです。
家に一人でいると、誰とも言葉を交わさない日もあります。そんなとき、行きつけの喫茶店でコーヒーを一杯飲む。マスターと「暑いですね」と交わすだけの、短いやりとり。それでも、「まちの中に、自分を知っている人がいる」という感覚は、思いのほか心を支えてくれます。
大げさな交流でなくていいのです。顔を覚えてもらい、軽く言葉を交わす。その積み重ねが、まちを「通り過ぎる場所」から「自分の場所」へと変えていきます。
どんな店が行きつけに向いているでしょうか。おすすめは、滞在しても急かされない店、そして季節や好みが表れる店です。
喫茶店は、行きつけの王道です。決まった席で、決まった一杯を。本を読んでも、ぼんやりしても許される時間が、そこにはあります。
書店、とくに小さな個人書店も、いい行きつけになります。棚を眺め、店主のおすすめを聞き、一冊を連れて帰る。通ううちに、「こういう本、好きそうですね」と声をかけてもらえたら、しめたものです。
花屋も、暮らしに彩りを添えてくれます。「今日はどんな花がありますか」と尋ね、季節の一輪を求める。家に花があるだけで、部屋の空気が変わります。
行きつけは、探すものというより、通ううちに、いつのまにかそうなっているものです。
一軒あれば、毎日が変わる
たくさんいらないのです。喫茶店でも、書店でも、花屋でも、「自分の場所」と思える一軒があれば、出かける理由ができ、まちが身近になり、毎日に小さな張りが生まれます。
明日、いつもの道を少し寄り道して、気になっていたあの店の扉を開けてみませんか。



