いくつになっても心にきらめきを。

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- 「好き」は、自由
俳優、歌手、スポーツ選手、アイドル、はたまた小説のキャラクターまで。「この人(この子)が好き!」という気持ちで毎日を彩る——それが、いま幅広い世代に広がっている「推し活」です。 「いまさら?」なんて、思う必要はありません。誰かを好きになる気持ちに、年齢は関係ないのですから。 ときめく心は、若い人だけの特権ではありません。むしろ、時間にゆとりが生まれた今こそ、好きなものに思いきり熱中できる時期ともいえます。 テレビで見かけた俳優を目で追ってしまう。お気に入りの歌手の曲を口ずさむ。それは立派な「推し」のはじまりです。誰に遠慮することもなく、心が動くほうへ素直に進んでみる。その軽やかさが、毎日に新しい風を吹き込みます。 推しの存在は、いわば「心の居場所」。落ち込んだ日も、「あの人ががんばっているから、私も」と、そっと背中を押してくれます。 「コンサートに行きたいから、元気でいよう」と、健康に気を配るようになる人も多いそうです。 キラビュー読者からも、こんな声が届いています。 「推しの笑顔を見て元気になったり、趣味仲間と語り合って笑い合ったり。自分の『好き』を大切にすることで、毎日が少しずつ輝いて見えるようになります」(60代・東京都・Rei) 「母を亡くしたとき、宝塚の舞台を観て、元気をもらいました」(60代・神奈川県・ココナッツ) 推し活のもうひとつの楽しさは、同じ「好き」を持つ仲間との出会いです。 SNSやファンの集まり、コンサート会場で、年齢も立場も関係なく、「あの場面、よかったですね」と語り合える。共通の話題があると、人との距離はあっという間に縮まります。ひとりで楽しむのもよし、誰かと分かち合うのもよし。推し活は、新しいつながりを連れてきて、ひとりの時間の寂しさも、そっと軽くしてくれます。 楽しみ方も、自由自在です。出演する番組や舞台を観る、写真集やグッズを眺める、ゆかりの土地を訪ねる、配信をのんびり楽しむ。お金をかけなくても、心を寄せるだけで十分に満たされます。「これくらいにしておこう」と、自分のペースと予算で楽しめるのも、大人の推し活のいいところです。 「次のライブまで頑張ろう」「新しい作品が楽しみ」。そんな小さな「楽しみ」が、日々に張り合いを生みます。 推しは、遠い存在のようでいて、あなたの毎日をいきいきと照らしてくれる。 気になる人がいるなら、まずはその活躍を追いかけてみては? あなたの「好き」は、自由なのですから。
- 昔、一軍で使っていたマグカップ。
KiraView編集部は現在、吉祥寺にあります。 1980年代から90年代にかけて、東京には、個性的な雑貨店が数多くありました。 サザビーの「アフタヌーンティー」をはじめ、「F.O.B COOP」や「サンデーブランチ」。オリジナル雑貨や輸入家具をセンスよく編集したショップに、カフェが併設されている。そんなスタイルのお店が、次々と生まれた時代です。 表参道には、まだ同潤会アパートがありました。現在の表参道ヒルズが建つ、あの場所です。 渋谷のファイヤー通りには「LIVE LABORATORY」、明治通りには「zakka」や文房具の「FLAGS」、少し路地に入れば雑貨屋「Nice」、キッチュなかわいいものばかりの「宇宙百貨」や「大中」なども、ありました。 まさに、みんな違って、みんないい、雑貨の黄金時代。 いまや雑貨は100円ショップでも手軽に買える時代ですが、当時のショップに並ぶ品々は、驚くほど個性的でした。 カフェでは、エスプレッソやオランジーナ、生クリームがドカンと盛られたバナナケーキ、スコーンやBLTサンドなどを、ちょっとドキドキしながらいただく。同じ空間には、センスよくディスプレイされた、舶来品の香りが漂う雑貨たち。 私たちが欲しいものが、そこには全部あったのです。 雑誌『オリーブ』をはじめ、多くの女の子たちが読む雑誌がこぞって取り上げたのも、うなずけます。私が雑誌の編集者になりたいと思ったのも、「雑貨スタイリスト」という職業を初めて知ったのも、この頃でした。 そんな時代、吉祥寺には「ペンギンカフェ」という雑貨店とカフェがありました。 1階が中古レコード店になっている古いビル。階段を上り、扉を開けると、そこには別世界が広がっていました。 漆喰の壁。ブリキや真鍮、パイン材で作られたオリジナルのスタンドライト。その柔らかな明かりに照らされた、モスグリーンのソファとテーブル。飲み物や料理はアルミのトレーで運ばれてきました。カウンターもあって、スタッフは思い思いのベレー帽やハンチングをかぶっていたように記憶しています。同じビルに「ペンギンカフェTWO」というオリジナル雑貨のお店もあり、カフェで使われている食器やインテリアが、そのまま売られていました。そういえば、黒いロゴ入りのナイロンバッグを、いつも使っていたことも、これを書きながら思い出しました。 当時、私は近くの学校に通っていたこともあり、ペンギンカフェにはよく足を運びました。 少しだけおしゃれな大人になれる気がして、ちょっと格好をつけて出かける。いわゆる「ハレ」の場所だったのです。 先日、捨てられずに残っていた古い食器を片付けていたときに、なぜか、30年以上(!)も前のペンギンカフェのマグカップが出てきました。これをきっかけに、いつも使っているマグカップをいったん横において、また使い始めました。使うたびに、ペンギンカフェに通って、マグカップを使っていた当時の友人のことを思い出すようで、不思議な気分に。 同時に、そのカップでコーヒーを飲むたびに、当時、一緒にいた友人たちの名前や横顔。何を話していたのか、何がおかしかったのか。馬鹿なことばかりしていたので、すっかり忘れていたはずの映像が、コーヒーの香りとともに、次々に。 「あいつ、どうしているかな。久しぶりに連絡してみようかしら……」 そんな矢先に、高校時代につるんでいた「あいつ」から連絡が(笑)。不思議なこともあるもんです。 この話を周りにしてみると、こんな言葉が返ってきました。 「いつも使っている一軍のマグカップって、気に入ったものをかなり長く使うのよね。でも、ほかのカップに浮気して、一軍のベンチから外れると、いつの間にか行方不明になっている。そして、ある日突然、戸棚の奥から姿を現すんだよね」 久しぶりに使ってみたら、しまい込んでいた思い出が出てきて、しまいには、その思い出の中にいた友人までひょっこりと。 なんとなく捨てられないものは、思い切って処分するのも一つの選択です。 でも、長いこと戸棚の奥で眠っていてひょこりと姿を現したマグカップなら、再び一軍のベンチに入れ、改めて使うってのも、なかなかいいものです。
- 学び直しは出会い直し。大人のスクール・カルチャー教室の選び方
憧れていた水彩画、若い頃に途中でやめてしまったピアノ、あるいは英会話やパソコン。 きっかけは小さな好奇心でも、その一歩の先に、思いがけない出会いが待っていることは意外と知られていません。 学び直しは、知識を増やすためだけのものではありません。 同じテーブルを囲み、同じ課題に頭を悩ませ、うまくいったときに一緒に笑う。 そんな時間の積み重ねが、これまでの人間関係とはまったく違う、新しいつながりを生んでくれます。内閣府が令和4年に行った「生涯学習に関する世論調査」を見ると、学んだ理由として「人生を豊かにするため」を挙げた人が45.8%にのぼりました。 仕事のためだけでなく、暮らしそのものを彩るために学ぶ人が、これだけ多いということです。 さらに興味深いのは、「他の人との親睦を深めたり、友人を得たりするため」という理由が、年代が上がるほど増えていく傾向があること。 つまり大人世代にとって学びは、いつのまにか「誰かと出会う手段」でもあるのです。 教科書の外側に、人とのつながりという副産物がちゃんと用意されている、と言い換えてもいいかもしれません。新しい友人をつくるのは、年齢を重ねるほど難しくなる—— そんなふうに感じている方も少なくないでしょう。 けれど教室という場には、独特の心地よさがあります。 まず、共通の話題が最初から用意されている。 「今日の課題、難しかったですね」の一言で会話が始まります。 しかも、利害関係のないフラットな間柄。 仕事でも家庭でもない、第三の居場所だからこそ、肩の力を抜いて人と接することができます。 「年齢を理由に好きなことを諦めたくない」 (わかぽんさん・61歳女性・東京都) という声もありました。 学びの場は、その気持ちにそっと応えてくれる場所です。上達のスピードや過去の経歴は関係なく、「今、学びたい」という気持ちさえあれば、誰もが同じスタートラインに立てます。出会いを人間関係へと育てるコツは、実はシンプルで「続けること」に尽きます。 週に一度でも同じ顔ぶれと会っていれば、自然と会話が増え、教室の帰りにお茶を、やがて別の趣味へ一緒に、と輪が広がっていきます。 だからこそ、最初の教室選びは「続けられそうか」を基準にするのがおすすめです。という前向きな姿勢があれば、あとは無理なく通える環境を選ぶだけ。 楽しさは、あとからちゃんとついてきます。1. まずは「1日体験」か「3か月の短期講座」から いきなり年間契約を結ぶ必要はありません。 多くのカルチャースクールには体験レッスンがあります 1回2,000円前後で試せる講座も多いので、まずは気になるものを2〜3種類、実際に足を運んで空気を確かめましょう。 2. ペースは「週1回・90分」を目安に 続けやすく、かつ仲間の顔と名前を覚えられる、ちょうどいい頻度です。 月2回だと間が空きすぎて関係が深まりにくく、逆に週2回以上は負担になりがち。 まずは週1回から始めてみてください。 3. 教室選びのチェックは、この3つ ① 少人数か(10人前後だと会話が生まれやすい) ② 同じ大人世代の参加者がいるか ③ 発表会や作品展など「一緒に何かをつくる機会」があるか。 この3点がそろっている教室は、仲間ができやすい傾向があります。 4. 迷ったら「ちょっと苦手」を選ぶ。 得意分野より、少し背伸びが必要なテーマのほうが、教え合いや励まし合いが生まれ、つながりが深まります。 学びの数だけ出会いがある 一冊のノートを開くように、新しい教室の扉を開けてみる。 そこには、まだ知らないあなた自身と、まだ出会っていない誰かが待っています。 学び直しは、決して「取り戻す」ためのものではありません。 これからの毎日に、新しい景色と新しい仲間を加えていく、前向きな冒険です。
- 食文化を学ぶ「発酵、出汁、季節の行事食」
味噌、しょうゆ、納豆、ぬか漬け、かつお節。 私たちが毎日口にしている和食は、実は先人たちが積み重ねてきた知恵のかたまりです。 とりわけ、発酵・出汁・季節の行事食には、健康にも、暮らしの豊かさにも通じる工夫が詰まっています。 年齢を重ねた今だからこそ、こうした食文化を「学び直す」楽しみがあります。 ただ食べるだけでなく、「なぜこうするのか」「どんな意味があるのか」を知ると、毎日の食卓がぐっと味わい深くなります。 この記事では、発酵食品の世界、出汁の魅力ととり方、季節の行事食の意味、そして暮らしへの生かし方までを、網羅的にご紹介します。 台所が、いちばん身近な学びの場になります。 毎日の食事は、当たり前のように繰り返されるもの。 でも、その一皿の背景に目を向けると、驚くほど深い世界が広がっています。 なぜ味噌やしょうゆは長く保つのか。なぜ出汁をとるとおいしくなるのか。 なぜお正月にお雑煮を食べ、節分に豆をまくのか。 こうした「なぜ」を知ることは、食を通じた教養であり、暮らしを豊かにする学びです。 しかも、この学びは、机の上ではなく、台所と食卓で実践できます。 知れば知るほど、いつもの食事が特別なものに変わっていきます。 発酵とは、微生物(菌)の働きで、食材がうまみや栄養、保存性を増す変化のことです。 日本は、湿潤な気候を生かして、世界でも豊かな発酵文化を育ててきました。 代表的な発酵食品を挙げてみましょう。 味噌:大豆を発酵。うまみと栄養が豊富、汁物や調味に しょうゆ :和食の味の要。うまみと香り 納豆: 大豆発酵の代表。独特の粘りと栄養 ぬか漬け :野菜を乳酸発酵。うまみと風味が増す 甘酒 :「飲む点滴」とも呼ばれる。米麹由来 かつお節: 発酵・熟成させた保存食であり、出汁の要 発酵食品には、うまみが増す、保存がきく、腸内環境を整える助けになるといった魅力があります。とくに、味噌・納豆・ぬか漬けなどは、毎日の食卓に無理なく取り入れられます。 いろいろな発酵食品を、少しずつ取り入れてみるのがおすすめです。 出汁の魅力ととり方 和食の味の土台をつくるのが、出汁(だし)です。 かつお節、昆布、煮干し、干し椎茸 ——これらから引き出されるうまみが、日本の味の基本になっています。 出汁の魅力は、味わいだけではありません。 しっかり出汁をきかせると、少ない塩分でも料理がおいしくなるのです。 これは、塩分を控えたい大人世代にとって、うれしい知恵。 うまみが満足感を高め、薄味でも物足りなさを感じにくくなります。 簡単な出汁のとり方 昆布出汁:水に昆布を30分〜ひと晩つけておくだけでも、うまみが出ます(水出し)。 火にかけるなら、沸騰直前に取り出します かつお出汁:沸かしたお湯にかつお節を入れ、少し待って濾すだけ。香り高い出汁がとれます 昆布+かつおの合わせ出汁:昆布とかつおを合わせると、うまみが重なって深い味わいに 手軽に:忙しい日は、無添加の出汁パックや、だしの素を上手に使ってもかまいません 「出汁をとるのは面倒」と思われがちですが、水出し昆布なら、つけておくだけ。 ひと手間で、料理の味と健康の両方に効く——それが出汁の知恵です。 日本には、季節の節目ごとに食べる行事食があります。 それぞれに、健康や幸せを願う意味が込められています。 お正月のおせち・お雑煮:豊作や健康、長寿などの願いを込めた料理の数々 節分の豆・恵方巻き:邪気を払い、福を招く ひな祭りのちらし寿司・はまぐり:子や家族の幸せを願う 土用の丑のうなぎ:夏の暑さを乗り切る栄養を お月見の団子:実りへの感謝 冬至のかぼちゃ・ゆず湯:栄養をとり、体を温めて冬を越す 行事食は、季節を感じ、家族の健康を願い、暮らしにリズムを生むもの。 手の込んだものを作らなくても、「今日は冬至だからかぼちゃを食べよう」と意識するだけで、日々に季節の彩りが加わります。孫や家族に、その意味を伝えるのも、豊かな時間になります。 発酵食品を「ひとつ足す」:いつもの食事に、納豆や味噌汁、ぬか漬けをプラス 出汁をきかせて減塩:しっかり出汁をとり、塩分は控えめに。健康的でおいしい食卓に 季節の行事を意識する:暦を見て、その季節の食を楽しむ 自分で作ってみる:ぬか床を始める、味噌を仕込む、出汁をとる。作る過程そのものが学びと楽しみになります 旬の食材を選ぶ:季節のものは栄養価が高く、味もよく、値段も手ごろなことが多いもの無理なく、「面白い」と思えるものから取り入れるのがコツです。 買うだけでなく、自分で作ってみると、発酵食品はもっと面白くなります。 作る過程そのものが、食文化を体で学ぶ時間になります。 むずかしそうに見えて、実は手軽に始められるものもあります。 ぬか漬け:ぬか床さえ用意すれば、季節の野菜を漬けるだけ。 毎日かき混ぜる手間はありますが、その世話も含めて楽しみになります。 冷蔵庫で管理できるタイプなら手軽です 甘酒:米麹と炊いたごはん(またはおかゆ)から作れます。 砂糖を使わない自然な甘みで、料理の甘味づけにも使えます 手前味噌:大豆・米麹・塩から仕込む味噌は、時間はかかりますが、できあがったときの喜びは格別。 「手前味噌」という言葉の由来も、体で分かります 塩麹:麹と塩と水を混ぜて発酵させる調味料。肉や魚をやわらかくし、うまみを加えます 失敗を恐れず、まずはひとつ。 「作る楽しみ」と「待つ楽しみ」は、発酵ならではの豊かな時間です。 発酵食品は体にうれしい一方で、味噌・しょうゆ・漬物には塩分が多いものもあります。 健康のためには、上手に付き合うことが大切です。 出汁のうまみを生かす:しっかり出汁をきかせれば、味噌汁の味噌を控えめにしてもおいしく仕上がります 具だくさんにする:味噌汁は具を多くすると、汁の量が減り、自然と減塩に。野菜のカリウムが塩分の排出も助けます 漬物は少量を楽しむ:たくさん食べるより、少量を味わって 減塩タイプを選ぶ:減塩味噌・減塩しょうゆも上手に活用を 発酵食品の「うまみ」は、減塩の強い味方でもあります。 塩を減らしても、うまみで満足感を保てる ——これも、先人の知恵の生かし方です。 近年よく耳にする「腸活」も、発酵食品と深く関わっています。 腸内には、たくさんの菌がすんでいて、その環境を整えることが、体調や気分にも関わると考えられています。 発酵食品は、その腸内環境を整える助けになるとされ、注目されています。 腸活のコツは、発酵食品だけに頼らないこと。 発酵食品(味噌・納豆・ぬか漬け・ヨーグルトなど)と、食物繊維(野菜・海藻・きのこ・豆・穀物)を組み合わせると、より効果的とされます。 菌のはたらきと、菌のエサになる食物繊維、両方をとるイメージです。 とはいえ、難しく考える必要はありません。 味噌汁に野菜やわかめを入れる、納豆に薬味を添える、漬物と一緒に穀物や豆を食べる ——いつもの和食の組み合わせが、実は理にかなった腸活になっています。 先人の食の知恵は、現代の健康志向とも自然につながっているのです。 日本は、味噌・しょうゆ・納豆・みりん・酢・かつお節・日本酒など、麹(こうじ)を使った独特で多彩な発酵文化を育ててきた国です。 世界の発酵食品を知ると、日本の食文化の豊かさが、いっそう味わい深く感じられます。 台所から、世界と歴史に思いをはせる ——それも、食文化を学ぶ楽しみのひとつです。 発酵食品を暮らしに取り入れるうえで、保存ととりすぎへの注意も知っておきましょう。 保存:味噌やぬか床は、生きた菌の働きで変化し続けます。 冷蔵庫で適切に保存し、ぬか床は定期的にかき混ぜて。開封後は早めに使い切るのが基本です 塩分に注意:味噌・しょうゆ・漬物など、発酵食品には塩分が多いものがあります。 健康のためには、出汁のうまみを生かして塩分を控える、漬物は少量にする、といった工夫を いろいろな種類を少しずつ:一種類をたくさんではなく、味噌・納豆・ぬか漬け・ヨーグルトなど、いろいろな発酵食品を、毎日少しずつ続けるのが理想です 食物繊維と組み合わせる:野菜・海藻・きのこ・豆などの食物繊維とあわせてとると、腸の健康により効果的とされます 発酵食品は、「毎日、いろいろ、少しずつ、塩分は控えめに」が、上手な付き合い方です。 年齢を重ねた今だからこそ、「なぜこうするのか」を味わいながら学ぶ楽しみがあります。 台所は、いちばん身近な学びの場。今日のお味噌汁を、水出し昆布のひと手間から始めてみませんか。 いつもの一杯が、少し特別な味わいに変わるはずです。
- 靴を選ぶ時間帯
「昔と同じサイズを買っているのに、なんだか歩きにくい」。 ——そんな違和感があるなら、それは思い込みではありません。 足は、年齢とともに変わります。 縦のアーチが下がり、幅が広がり、長さも少し変わる。 つまり、20年前のサイズは、もう今のあなたの足ではないのです。 そして、足元は転倒に直結します。 住まいでの転倒は、大人世代の救急搬送の大きな割合を占めています。 おしゃれのためだけでなく、出かけ続けるために、靴を選び直しましょう。 デパートの靴売り場や、スポーツ用品店の多くで、無料の足型計測をしてくれます。 長さだけでなく、足囲(ワイズ)まで測ってもらうのがポイント。 「私はEだと思っていたら、実は2Eだった」というのは、よくある話です。 年に1度で十分。ただし、一度は必ず測る。 これが、すべての基本になります。 試着は「夕方」にする これは、覚えておくと一生使える知恵です。 足は、夕方にいちばんむくみます。 朝ぴったりだった靴が、夕方には窮屈になる。 だから、買うときは夕方に、履いていく予定の靴下で試す。 サイズの目安は、つま先に5〜10mmの余裕があり、かかとがしっかり固定されること。 そして必ず、店内を10歩以上歩く。 立っただけでは、合うかどうかはわかりません。 出かける靴に求める3つのこと 1. かかとが硬いこと:かかとの部分を指でつまんで、簡単につぶれるものは避ける。ここが足を支えます 2. つま先が少し反っていること:地面をける動作が楽になり、つまずきにくくなります 3. 靴底が滑りにくいこと:溝のパターンがはっきりしているものを ヒールは、3〜4cmまでなら、むしろ歩きやすいこともあります。 大切なのは高さより、接地面の広さ。 細いピンヒールより、太めのヒールを。
- 大切な人を見送るということ。
葬儀が終わり、人が引き上げたあとの家は、驚くほど静かです。やることが山ほどあったはずなのに、急に手が空く。そして、悲しみは葬儀の日ではなく、その静けさのなかで本格的に始まります。まだ誰も見送っていない方にとっても、この話は無関係ではありません。グリーフケアとは、悲しみを消す技術ではなく、悲しみと一緒に暮らしていくための考え方です。何が起きるかを先に知っておくことが、そのまま支えになります。 深い悲しみは段階を追って進む、という説明を目にすることがあります。否認から始まり、怒り、そして受容へ。整理としてはわかりやすいのですが、実際にはその通りに進む人のほうが少ないと言われています。 現実にはもっと不規則です。三か月経って落ち着いたと思った翌週に、スーパーの惣菜売り場で足が止まる。一年経ってから、初めて涙が出る。よい日と悪い日が交互に来て、しばらくすると悪い日の間隔が少し延びる。回復とは、悲しまなくなることではなく、この波の間隔が変わっていくことに近いようです。 そして、悲しみ方には幅があります。泣き続ける人もいれば、涙が出ない人もいます。ひとりになりたい人もいれば、誰かといないと落ち着かない人もいます。仕事に没頭する人を「冷たい」と見るのは的外れです。動くことでしのいでいる場合が少なくありません。 期限もありません。「そろそろ一年だから」「四十九日を過ぎたから」という区切りは、行事の都合であって、心の都合ではないのです。周りの言葉と自分の実感がずれても、間違っているのは自分ではありません。死別のあと、眠れない、食欲がない、疲れが抜けない、といった変化が出ることがあります。頭が働かず、鍋を火にかけたことを忘れる。同じ書類を何度も探す。人の名前が出てこない。こうした反応は、強い喪失のあとに起こりうるものとして知られています。 感じ方には個人差があります。 自分を責める気持ちが出てくることもあります。もっと早く病院に連れて行っていれば。あの日、あんな言い方をしなければ。この「たられば」は、どうにもならなかった出来事に理由を与えようとする、心の働きの一つです。理屈で打ち消そうとしてもなかなか消えませんが、時間とともに出番が減っていくことが多いようです。 気をつけたいのは、体の不調を「悲しみのせい」とすべて片づけてしまうことです。血圧や持病の悪化、体重の急な減少が重なっている場合もあります。眠れない日が何週間も続く、食事がほとんど摂れない、胸の痛みや息苦しさがある。こうしたときは、我慢せずにかかりつけ医に相談してください。「身内を亡くしてから調子が出ない」と最初に伝えておくと、話が早く進みます。 見送ったあとには、まとまった事務作業が待っています。死亡届は原則として、亡くなったことを知った日から七日以内に提出することになっています。そのほかにも、健康保険や年金、公共料金の名義、金融機関の口座など、期限のあるものと急がなくてよいものが混ざって押し寄せます。制度は改正されることがあります。最新の内容はお住まいの自治体や公的窓口でご確認ください。 このとき起きやすいのが、悲しむ余裕がないまま数か月が過ぎ、すべて終わったころに一気に力が抜ける、という流れです。「手続きが忙しくて助かった」という感覚は、実際にあります。ただし、それは先送りであって、通過ではありません。 現実的な工夫としては、やることを「期限のあるもの」と「いつでもよいもの」の二つに分けることです。そのうえで、期限のないもの――遺品の整理、写真の片づけ、部屋の模様替え――は、急いで手をつけないほうがよいと言われています。判断力が落ちている時期に手放したものは、後から取り返せません。捨てる決断は、一年ほど置いてからでも遅くはありません。 そして、頼めることは頼むこと。役所に同行してもらう、書類のコピーを取ってもらう、その日の食事を届けてもらう。周りの人は「何かできることがあれば」と言いながら、何をすればよいかわからずにいることが多いものです。具体的に頼まれるほうが、相手も動きやすくなります。 そして、時間が経ってからの連絡に価値があります。葬儀の直後には人が集まり、三か月後には誰も来なくなる。半年後、一年後の命日前後に「そういえば」と連絡をくれる人は、記憶に残ります。カレンダーに印をつけておくだけでできることです。 強い悲しみが長く続き、日常生活が立ち行かなくなる状態については、近年、医学的にも整理が進んでいます。国際的な診断基準では、死別からかなりの期間が過ぎても激しい悲嘆が続き、生活に支障が出ている状態を「遷延性悲嘆症」として扱うようになりました。期間の目安は基準によって異なり、個人差も大きいとされています。 大切なのは、何か月経ったかという数字ではなく、生活が動いているかどうかです。食事や睡眠が長く崩れたまま戻らない。人に会うことも外出も一切できない。故人以外のことを考えられない。死にたい気持ちが浮かぶ。こうした状態が続くなら、それは弱さではなく、支えが必要なサインです。 相談先は、かかりつけ医のほか、お住まいの地域の保健センターや精神保健福祉センターがあります。緩和ケアやホスピスを持つ病院が、遺族の集まりや相談の場を設けていることもあります。専門家に話すことに抵抗があるなら、同じ経験をした人が集まる会を覗いてみるだけでもかまいません。 もし今、渦中にいらっしゃるなら、一日の中に「決めなくていい時間」を作ってみてください。手続きの書類を閉じて、湯に浸かる。散歩に出る。判断を休ませる時間は、事務作業と同じくらい必要です。 まだ渦中でない方は、故人となる誰かのためにできることを一つだけ。連絡先の一覧を作っておく、保険や口座のありかを紙にまとめておく。残される側の負担を減らす準備は、悲しみの時間を守る準備でもあります。 そして、身近に見送った方がいるなら、今日ではなくてかまわないので、少し先の日付に「連絡する」と書き込んでおいてください。人が引き上げたあとの静けさに、思い出したように届く一言。それが、いちばん効く支えになることがあります。
- 片づけ整理の悩み。
片づけというと、つい「いくつ手放せたか」を数えたくなります。けれど、減らした数の多さが、そのまま心地よさになるわけではありません。たくさん捨てたのに、なんだか満たされない。そんな経験をした方もいるのではないでしょうか。 大切なのは、ものの量ではなく、自分との相性です。手に取ったときに気持ちが上がるか、今の暮らしで本当に使っているか。その問いを基準にすると、片づけは「我慢の作業」から「お気に入りを選ぶ時間」へと変わります。残すと決めたものは、堂々と使っていい。捨てられない自分を責める必要も、もうありません。 これまで住まいは、家族のため、来客のために整えられてきたのではないでしょうか。子どもが使っていた部屋、めったに出さない来客用の食器、いつかのためにとっておいた道具。気づけば、自分以外の誰かのための場所が、家の多くを占めていたかもしれません。 その役目が一段落した今こそ、暮らしを自分の体と好みに合わせて選び直すときです。よく使うものを、よく使う場所に。届きやすい高さに、取り出しやすい位置に。たったそれだけで、毎日の小さな動作がぐっと楽になります。 自分仕様に選び直すことは、安全の面でも理にかなっています。厚生労働省がまとめた介護予防の考え方でも、ふだん通る通り道に物を置かず、床まわりをすっきり保っておくことが、つまずきや転倒を防ぐ基本とされています。日本転倒予防学会も、片づいていない場所はつまずきのもとだと注意を呼びかけています。心地よく整えた住まいは、これからを安心して過ごせる住まいでもあるのです。 いきなり家中を片づける必要はありません。 今日からできる小さな一歩を、三つだけ。 ひとつめは、場所を一か所に絞ること。引き出しひとつ、棚一段でかまいません。範囲を小さくするほど、終わったときの「できた」という満足感は大きくなります。 ふたつめは、ものさしを「いつか使うか」から「今、心が動くか」に変えること。未来の不安ではなく、今の自分の気持ちを基準にすると、選ぶ手が自然と軽くなります。 みっつめは、迷うものは「保留箱」へ入れること。無理に答えを出さず、ひと箱にまとめておく。時間をおいてから見返すと、不思議と気持ちの整理がついていることに気づきます。
- 夫婦の距離
子どもが巣立ち、家の中が静かになった。二人きりの食卓で、天気とテレビの話をしたら会話が終わってしまう。仲が悪いわけではないのに、どこか手持ち無沙汰。そんな感覚を、うまく言葉にできずにいる方は少なくありません。実はこれ、関係が冷えたのではなく、長く続いた「親としての共同作業」が一区切りついたサインでもあります。 子育ての時期、夫婦の会話には自然と議題がありました。誰がどこへ送るか、進路をどうするか、行事は何時からか。話すべきことが向こうから毎日やってきて、二人はその処理係として並んで座っていたわけです。 その議題が、ある日ぱたりと止まる。すると残るのは「何を話せばいいのか」という空白です。会話が減った原因を相手の性格や愛情の量に求めてしまうと、話はこじれます。多くの場合、減ったのは気持ちではなく、共有していた業務連絡のほうです。 ここで焦って「もっと話そう」と迫ると、たいてい空回りします。長年連れ添った相手ほど、改まった問いかけには身構えるものです。「最近どう思ってる」と正面から聞かれて、すらすら答えられる人はそう多くありません。 順序としては、まず空白があること自体を認めてしまうほうが楽です。話題がないのは自然なこと。そのうえで、業務連絡ではない会話の材料を、少しずつ外から持ち込んでいく。そう考えると、気が軽くなりませんか。 夫婦の距離というと、近いほど良い、離れていると危険、と考えがちです。けれど実際に暮らしを心地よくするのは、近さそのものではなく、近づいたり離れたりの切り替えがどれだけ滑らかか、という点です。 たとえば、片方が新聞を読んでいるときにもう片方が話しかける。応じるときもあれば、「あとでね」と言えるときもある。この「あとでね」が角を立てずに言える関係は、距離が遠いのではなく、間合いが整っていると言えます。 逆に、常に一緒にいるのに、どちらも本当に休めていない家庭もあります。相手の機嫌をうかがい続ける同室は、距離としてはとても近いのに、疲れが抜けません。 切り替えのしやすさを上げるには、合図を決めておくのが手っ取り早い方法です。「今は集中したい」と言葉で伝えるのが照れくさければ、書斎の扉を半分閉める、帽子をかぶって庭に出る、といった動作でもかまいません。互いに解読できる合図が一つあるだけで、無言の緊張はかなり減ります。 定年や働き方の変化で、二人が一日中同じ空間にいる時間が増えると、それまで見えていなかった摩擦が浮かびます。台所の使い方、テレビの音量、掃除の順番。どれも小さなことですが、積み重なると効きます。 有効なのは、感情の話にする前に、空間と時間の割り振りを見直すことです。家の中に、それぞれが「ここは自分が決めていい」と思える持ち場をつくる。部屋が余っていなくても、机ひとつ、棚ひとつ、椅子ひとつでも成り立ちます。 時間の持ち場も同じです。午前中は片方が家事の主導権を持ち、もう片方は口を出さない。午後は逆にする。役割を固定するのではなく、時間で交代させると、どちらも「自分の裁量がある時間」を持てます。 家事の分担をめぐる話し合いは、正しさを競うと必ず消耗します。「どちらが多くやっているか」ではなく「どこからどこまでを誰が決めるか」に論点を移すと、驚くほど揉めにくくなります。担当を決めた側のやり方には、多少気になっても口を挟まない。これが約束の中身です。 沈黙が続いた相手と会話を取り戻すとき、いきなり深い話をする必要はありません。むしろ効くのは、中身のない実況です。「この豆、前のより酸っぱい」「駅前の店、また変わってた」。返事を求めない独り言のような一言が、会話の敷居を下げます。 もうひとつ試しやすいのが、同じものを一緒に見る時間です。向かい合って話すより、横に並んで同じ方向を見るほうが、言葉は出やすくなります。散歩でも、庭仕事でも、録画したドラマでもかまいません。感想を言い合う必要すらなく、同じ景色を共有した事実が残ります。 会話が続かないとき、相手を質問攻めにするのは避けたいところです。「今日は何してた」を毎日聞かれると、報告義務のように感じる人もいます。聞くなら、事実より好みを。「今度の休み、海と山ならどっち」くらいの軽さが、ちょうどよく届きます。 友人と旅行に行く、習い事に通う、一人で映画を見に行く。こうした別行動を、相手に悪いと感じてしまう方がいます。けれど、外で得た体験は、そのまま二人の会話の材料になって帰ってきます。別々に過ごす時間は、関係から何かを引くのではなく、持ち帰るものを増やす行為でもあります。 大切なのは、隠さないことと、報告しすぎないこと。行き先と帰る時間だけ共有し、細かい中身は聞かれたら話す。この程度の透明さが、多くの家庭でちょうどよく働きます。 一方で、どちらかが強い寂しさを感じている場合は、別行動の前に一言添えておくと安心感が違います。「来週は一緒にどこか行こう」と次の約束をセットにするだけで、置いていかれた感じはかなり和らぎます。
- 三世代で旅行に出かけた帰り道
三世代で旅行に出かけた帰り道。孫は眠り、息子や娘は運転席で黙っている。楽しかったはずなのに、いちばん気を遣って、いちばん疲れていたのは自分だった。そんな覚えはありませんか。三世代旅がうまくいかないのは、仲が悪いからではありません。たいていは、誰が何を決めるのかが曖昧なまま出発してしまうからです。 三世代旅には、三つの時計が同時に動いています。孫は朝から全開で、昼過ぎに電池が切れます。息子や娘の世代は、運転と予約と支払いで気を張り続けています。そして自分たちは、午後にいちど腰を下ろしたい。この三つの時計を一本にそろえようとすると、どこかに必ず無理が出ます。 やっかいなのは、全員が相手を思いやっているのに、うまくいかないことです。「孫が喜ぶなら」と歩き続ける。「親が疲れているだろうから」と早めに切り上げる。「せっかく連れてきてもらったのだから」と何も言わない。よかれが重なった結果、誰の希望も通らない一日ができあがります。 役割分担というと、仕事の割り振りのように聞こえるかもしれません。けれど三世代旅で必要なのは、労働の分配ではなく、決定権の分配です。この場面では誰の判断で動くのか。それだけ決まっていれば、遠慮の押し合いはずいぶん減ります。 出発前に、ゆるく係を決めておく方法があります。正式なものではなく、家族の会話のなかで「じゃあそこはお願い」と言い合う程度で十分です。 • 行程係:行き先と時間の最終判断をする人。迷ったときはこの人が決めます。息子や娘の世代が担うことが多い役です。 • 記録係:写真や動画を撮る人。中学生や高校生の孫に任せると、思いがけない角度の一枚が残ります。 • 食事係:昼食と夕食の場所を押さえる人。全員の好き嫌いをいちばん把握している人が向いています。 • 休憩係:「そろそろ座りませんか」と最初に言う人。 この四つ目が、実は要になります。休憩を言い出す役が決まっていないと、誰もが我慢比べを始めてしまうからです。休憩係を引き受けると、自分の疲れを訴える必要がなくなります。「みんなのために」座る流れをつくれるので、言い出しやすくなるのです。人生後半にさしかかった世代がこの係を担うのは、遠慮ではなく、旅全体を支える働きだと考えてよいと思います。 三世代が朝から晩まで同じ動線をたどる必要は、実はありません。うまくいっている家族旅行ほど、途中で分かれて、また合流しています。 たとえば午前中は、孫と親世代でアスレチックや水族館へ。自分たちは宿の周辺を散歩して、喫茶店で一時間ほど過ごす。昼食で合流し、午後はゆるやかな見学に全員で出かける。夕方は先に宿へ戻り、風呂の順番をずらす。決めておくのは、集合の時刻と場所だけです。 分かれることに気が引ける方もいるかもしれません。けれど、ずっと一緒にいることと、いい時間を過ごすことは同じではありません。二時間離れていたからこそ、昼食の席で話すことが増える。孫が「さっきこんなのがあった」と報告してくれる。その報告を聞く役回りは、悪くないものです。 合流の場所は、屋内で、座れて、雨でも困らないところを選ぶのがこつです。駅の改札前や広場は分かりやすい反面、待つ側に負担がかかります。道の駅の休憩スペース、宿のロビー、商業施設の一階。そういう場所を先に一か所決めておくと、多少の遅れが出ても気持ちがざわつきません。 拠点になる宿をひとつ決めて、そこから出たり戻ったりする形にすると、荷物の移動も減ります。移動そのものが目的地になってしまう行程は、どの世代にとっても消耗が大きくなりがちです。 三世代旅で後味を左右するのが、費用の扱いです。祖父母がすべて負担するのが恒例になると、翌年から誘うほうが気を遣ってしまい、声がかかりにくくなることがあります。逆に、その場の流れで財布を出し合うと、あとから小さなしこりが残ることもあります。 おすすめは、出発前に一度だけ、大まかな線を引いておくことです。宿代はこちらで持つ、現地の食事は各自、交通費は折半、といった具合です。細かい精算をしないと決めてしまうほうが、旅先での会話は軽くなります。 孫へのお土産も、あらかじめ「ひとり一つまで」と伝えておくと、売店の前で気まずくなりません。買ってあげたい気持ちは自然なものですが、上限があると、選ぶ時間そのものが楽しくなります。お金の話を切り出すのは気詰まりかもしれません。それでも「今回はこうさせてね」と一度伝えておくほうが、旅のあいだじゅう遠慮し合うより、ずっと楽です。 膝の具合、長い階段、薬を飲む時刻。こうしたことを黙っていると、旅先で無理が出やすくなります。歩ける距離や休憩の間隔を、出発前に伝えておくと、行程を組む側も助かります。「迷惑をかけたくない」という気持ちが、かえって当日の負担を大きくしてしまうことは少なくありません。 持病がある方や、服薬を続けている方は、いつもと違う気候や移動が続く旅の前に、かかりつけの医師へ相談しておくと安心です。体調の感じ方には個人差がありますし、旅先での無理は自覚しにくいものです。移動中に胸の苦しさ、強いめまい、ふらつきなどを感じたときは、様子を見ずに早めに医療機関を頼ってください。
- 歴史を「読む」旅
観光地を訪れて、写真を撮って、次へ。それも旅の楽しみ方です。けれど、少しもったいない気もします。目の前のものが、「なぜここにあり、何を経てきたのか」を知らないまま通り過ぎているからです。 この寺は、誰が、どんな願いで建てたのか。この城は、どんな戦いを見てきたのか。この工場は、どんな時代を支えたのか。背景を知った瞬間、ただの「古い建物」が、時間の物語をまとった存在に変わります。 三つの「読みどころ」——寺社、史跡、産業遺産 寺社は、歴史を読む旅の入口として最適です。建てられた時代、宗派、建築の様式。仏像の表情や、庭のつくりにも意味が込められています。御朱印を集めながら巡れば、記録も残り、次への楽しみにもつながります。 史跡、とくに城跡や古戦場は、想像力をかき立てます。今は草に覆われた土地に、かつて人々の暮らしや攻防があった。石垣の積み方一つにも、時代と技術が刻まれています。 近年、静かに人気なのが産業遺産です。古い紡績工場、鉱山、鉄道施設、赤煉瓦の倉庫。日本の近代を支えた現場は、力強く、どこか郷愁を誘います。「昔、こういうもので国がつくられたのか」と、胸に迫るものがあります。 旅を深める「予習」の楽しみ 歴史の旅は、出かける前から始まっています。予習そのものが、旅の一部であり、楽しみなのです。 • 一冊、関連する本を読んでおく:その土地の歴史や、ゆかりの人物の物語を • 地図で位置関係をつかむ:「あの出来事は、ここで起きたのか」がわかると臨場感が増します • 現地の資料館・ガイドを頼る:土地の人の解説は、本にない深みを教えてくれます 予習した分だけ、現地での「なるほど!」が増えます。帰ってから調べ直すのも、また楽しいものです。 歴史を歩く旅は、足だけでなく、頭と心で味わう旅です。背景を知れば、見慣れた景色さえ違って見え、一つの場所から幾重もの物語が立ち上がります。 まずは、近くの寺社や史跡から。一冊の本を片手に、いつもより少しだけ「なぜ?」を持って歩いてみてください。土地が語りかけてくる声が、きっと聞こえてきます。
- いつもの席、空いてますよ
「いつもの席、空いてますよ」。そう声をかけてもらえる店が、近所に一軒ある。ただそれだけのことが、毎日の景色を少し変えてくれます。 若い頃は、新しい店、話題の店を探すのが楽しかったかもしれません。けれど年齢を重ねると、「知らない場所へ飛び込む楽しさ」よりも、「勝手のわかる場所でくつろぐ心地よさ」のほうが、じんわりと効いてくるものです。行きつけとは、その心地よさの、いちばん身近なかたちです。 行きつけの店の良さは、単に「便利」ということではありません。そこが、家でも職場でもない、third place(第三の居場所)になる、ということです。 家に一人でいると、誰とも言葉を交わさない日もあります。そんなとき、行きつけの喫茶店でコーヒーを一杯飲む。マスターと「暑いですね」と交わすだけの、短いやりとり。それでも、「まちの中に、自分を知っている人がいる」という感覚は、思いのほか心を支えてくれます。 大げさな交流でなくていいのです。顔を覚えてもらい、軽く言葉を交わす。その積み重ねが、まちを「通り過ぎる場所」から「自分の場所」へと変えていきます。 どんな店が行きつけに向いているでしょうか。おすすめは、滞在しても急かされない店、そして季節や好みが表れる店です。 喫茶店は、行きつけの王道です。決まった席で、決まった一杯を。本を読んでも、ぼんやりしても許される時間が、そこにはあります。 書店、とくに小さな個人書店も、いい行きつけになります。棚を眺め、店主のおすすめを聞き、一冊を連れて帰る。通ううちに、「こういう本、好きそうですね」と声をかけてもらえたら、しめたものです。 花屋も、暮らしに彩りを添えてくれます。「今日はどんな花がありますか」と尋ね、季節の一輪を求める。家に花があるだけで、部屋の空気が変わります。 行きつけは、探すものというより、通ううちに、いつのまにかそうなっているものです。 一軒あれば、毎日が変わる たくさんいらないのです。喫茶店でも、書店でも、花屋でも、「自分の場所」と思える一軒があれば、出かける理由ができ、まちが身近になり、毎日に小さな張りが生まれます。 明日、いつもの道を少し寄り道して、気になっていたあの店の扉を開けてみませんか。
- ともだちと旅に行く前の迷い
学生時代の友、ご近所さん、趣味の教室で意気投合した人。長いつきあいの相手と、ふと「二人で旅行でも行こうか」という話になる。あの高揚感って、何歳になっても色あせないものですね。 とはいえ、いざ計画を立て始めると小さな迷いも顔を出します。朝は何時に起きる?食事の好みは?ペースが合わなかったらどうしよう——。せっかくの旅で気疲れしてしまってはもったいない。 長年の友でも、四六時中ぴったり一緒だと、ふとした瞬間に疲れてしまうもの。心地よい距離感には、ちょっとしたコツがあります。 作法その一・「別行動、歓迎」を最初に宣言する 出発前に「見たいものが違ったら、それぞれ動こうね」と口に出しておく。これだけで、当日の遠慮がぐっと減ります。片方が美術館でじっくり、もう片方はカフェでひと休み。夕方に「どうだった?」と落ち合えば、土産話まで二倍になるという寸法です。 作法その二・「決めすぎない」余白を残す 分刻みの計画は、ズレたときにお互いを縛ります。行きたい場所は二つか三つに絞って、あとは足の向くまま。予定を詰め込まないほうが、思いがけない出会いも生まれます。 作法その三・お財布は最初から別々に 会計をまとめると、あとの精算が地味にストレス。その場でさっと自分の分を払う、と決めておけば、遠慮なく「私はこれ」「私はあっち」が言えます。 具体的な形に落とし込んでみましょう。おすすめは、行き先を一つの街に絞った一泊二日。あれこれ移動せず、ゆったり過ごすのが気楽さの秘訣です。 一日目の午後は二人で観光や散策を楽しみ、夜はおいしい食事とおしゃべりを心ゆくまで。そして翌日の午前中、ここに「半日フリータイム」をつくるのが最大のポイントです。3時間ほど、それぞれ好きな場所へ。買い物でも、朝湯でも、部屋で読書でもいい。お昼にまた合流して、「何してた?」と報告し合えば、それだけで話が弾みます。 宿はツインの部屋を選び、就寝時間は無理に合わせない。予算は交通費を除いて一人1万5千円ほどを目安にすれば、食事も宿も背伸びせず楽しめます。 「一緒6割・別々4割」——このくらいの配分が、大人の旅にはちょうどいいバランスです。











